ロサンゼルスの師匠たち④アラン・ワディントン氏

僕の卒業校、アメリカ・カリフォルニア州・シトラス大学、音楽科の副学科長だ。本人はドラマーであり、有名ロックバンド・Bon Joviのヴォーカリスト、John Bon Joviのソロプロジェクトでのバックドラマーを務めるなど、アメリカ・ヨーロッパの音楽シーンでもかなりクレジットがあるドラマーだ。

ドラマーというよりは、ミュージシャンとして多大な影響を受けたことは確かだが、それ以外にも一人間としての影響もかなり大きい。

とにかくAlan氏の考え方は現在の自身のスタイルにも恐ろしいほど影響を与えてくれた。大学在籍中はもちろんのこと、卒業後も仕事を与えてくれたり、一緒に食事をしたり、とにかく常に音楽に関する話をしていた。本人が述べている話の内容を是非ご紹介したい。

「ドラムに限らず楽器をやると、その楽器に関する技術にばかり集中し過ぎてドラムマニア、ドラムオタクになりがちだ。ただ一言で技術と言っても色々ある。手足を早く動かすこと、ストロークをきれいにすること、複雑な変拍子を叩くこと、フィルイン(おかず)のバリエーションを多彩にすること・・・など、これらは要するに、ドラムセットという楽器を演奏するために必要な身体面での最低限の技術だ。ただし、何よりも大切なことは、楽曲を輝かせる技術だ」

「実は、身体面の技術の事は一旦全て忘れて、楽曲の事だけに集中してドラムを演奏するとすごく良い演奏が出来る。なぜか?・・・ドラマーは気付かないうちに、想像以上に自分の音ばかりに集中しすぎてしまっているからだ。一度演奏中にメロディーラインや、シンガーがどこで息継ぎをしてるかなど、とにかく自分以外のパートに耳を集中させてみよう。どうしても手足にばかり神経が注がれてると、耳が作用しなくなる。その耳が作用すればするほど、その楽曲でドラマーがやるべきことが絶対に分かる」

「要するに、~ドラムを叩くという動作~だけに神経が集中し過ぎてしまってることによって、音楽的じゃなく、ドラム的な演奏になってしまう。主に歌もの系の仕事に呼ばれるドラマーは、必ずドラム的な演奏を避けなければいけない。ドラム以外をきちんと聞けるように耳を常にワイド・オープンにしておかなければいけない。そして最初に述べた身体面での最低限の技術の習得は、あくまで耳をワイド・オープンにするために練習するものだ」

例えば、人生初めてのライブで極度の緊張の中、自分がスティックをどう握っていたか、またはどんなフィルを叩いたかなんて覚えているだろうか・・・恐らく覚えていないだろう。実はこれが理想の形だ。

先ほどAlan氏が述べていた~身体面の技術~はあくまで、楽曲だけに集中していて体に意識がいってなくても、きちんと・自由に・思い通りに手足が動いてる状態を作るための技術に過ぎない。

身体面の完璧な技術は単なる道具であり、目的ではない。目標は気持ち良くグルーヴし、楽曲をより輝かせることが出来るドラム演奏だ。これからもこのゴール設定を間違えないようにしていきたい。

Play For The Song / Play For The People ~楽曲を演奏すること・人に向けて演奏すること~

次のページで、実際にAlan氏が常に力説する、*曲中でドラマーが意識するべき2大重要ポイント*をご紹介したい。

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Who You Areの解釈の違い

例えば、オーディションや新しい音楽の現場などで聞かれたりする。

直訳すると、「あなたは誰なのか」となるが、海外の音楽の場では、あなたはどういう人間なのか/あなたは何が出来るのかという意味合いになる。

日本では学歴やキャリア、共演歴などが分からないと「お前は誰だ」という表現になりがちだ。

しかしこの世界では、履歴書や職歴書の内容など誰も求めていない。そして、どれだけ早く手足を動かせるか、どれだけ難解なゴスペル・チョップが叩けるかなど、ドラマー以外の人間は誰も興味を持ってくれない

本来のポイントはそこではない。あなたがこの曲を叩いたらこういう感じになり、こういう表現になる、ということが伝えられれば正解だ。

そして当然、求められたことに対して、プラスアルファで自分なりの表現法を付け加えることが出来れば、なお素晴らしく評価される。

例えば、ラスベガス・カジノのナイト・ショーでのオールディーズ・TOP40バンドのドラマー・オーディションがあり、課題曲がEarth, Wind, & Fireの「September」だとしよう。

最初のイントロは、ハイハットだけ叩いてタイムをキープして、管楽器の大きなフレーズと共にフィルインを入れて8ビートに入る人もいれば、最初は何も叩かずにいきなり管楽器が入るところからビートを叩き出す人もいるだろう。

Aメロで歌が入り始めてからは、キックは1拍、3拍のみ踏むのか、またはずっと4分音符で踏むのか・・・様々なやり方があると思う。

すべては自分が気持ち良いと感じつつ、周りのバンドメンバーをきちんとサポート出来ていて、何よりも楽曲に合っていると感じたら、自信を持って堂々とその叩き方をして、自分にとってはこう感じるということを、まずは自己主張するべきだと思う。

くれぐれも、「自分は絶対にこのスタイルでしかやらないぜ」というアプローチにはならないように常に心がけたい。それだと単なるEgo(エゴ)になってしまう。

演奏の仕方、感じ方はひとりひとり当然違う。それが個性だ。音楽に個性がないなんて考えられない。自分自身はこういうミュージシャン・アーティスト・ドラマーだということが、人に伝えられることが素晴らしいことだと常に強く思っている。

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