8ビートの重要性

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もちろん他にも16ビートや3連系のビート、様々なタイプのグルーヴのパターンがあるが、8ビートは世の中の音楽の中でも一番良く耳にする基本ビートである。

キックを1拍・3拍、スネアを2拍・4拍(バックビートと呼ぶ)に入れるシンプルな基本のビートの事を海外では、マネー・ビート(Money-Beat)と呼んでいる。要するにお金を稼ぐビートだ。実際のセッションの現場では、ドラム・ソロじゃない限り、難解なフィル・インを5分間叩き続けることはほぼないであろう。

基本のビートをどれほど気持ち良く、そしてどれだけ楽曲に合うように叩けるかで、仕事をもらうことが出来る。アメリカでは、フィル・インはエクストラ・チップで、基本のビートは基本給だと、ミュージシャンの間でよく話をする。

~シンプルな8ビートであればあるほど、すごく過小評価されがちだ。シンプルで単純なビートに関しての世間の誤解は、未だに存在する~

あまりにもビートのパターンがシンプルだと周りから、「難解なことが出来ないから初心者ドラマーなのか」、「あまり上手くないのか」などと、聴き手から思われているかもしれないと不安になるドラマーもいる。

これらの思想は無駄で、無意味な心配であり、何よりも楽曲を表現する際のマイナス要素にしかならない。まずはこの邪念を体から除去しよう。なぜなら、これらの思想は大きな間違いだからだ。聴き手側にも、上記のような捉え方をする人間がいるなら、それは間違った捉え方だ。

ドラムセットプレイヤーの一番大事なタスク・・・それは、シングルストロークを誰よりも早く叩けるようになることじゃなく、高速ツーバスを誰よりも早く踏めるようになることじゃなく、そして難解なフィルインを毎4小節づつ叩けるようになることでもない。

~その楽曲に合う、正しいグルーヴを叩くこと~だ。

僕自身が一番最初に8ビートに違和感を感じたのは、ロサンゼルスでは初めての仕事でもある、TOP40バンドのショーだった。TOP40バンドとは、ビルボードランキングでその年に売れたベスト40位内の曲を演奏するバンドだ。何年度のランキング曲をやるかはそれぞれのバンドで異なり、場合によりけりだ。

とにかく海外では、日常生活の一部に音楽という要素が当たり前のように浸透している。ちょっとしたパーティーや結婚式はもちろん、クラブやバーやレストランのBGMなどとしてビッグバンド・ジャズ、またはTOP40などの踊りやすい音楽を演奏するプロのバンドを雇うのはかなり一般的だ。

こういった場で聴いてるお客さんたちはとにかく踊りたい、体を動かしたいわけだ。週末のクラブやバーでは、なおさらそういう野望を胸に抱いて来ている人は多い。

当時そんな事にも特に気付かずに、僕は与えられた音源と譜面で約40曲を覚え、一回のリハーサルのみで本番を迎えた。初めてのTOP40バンドのショーは、かなり大きなスポーツバーのようなところだった。週末の夜ということもあってかなりのお客さんがおり、バンドが演奏を始めるときにはもうすでにみんな酒がまわっていい感じになっていた。

カウントをして曲を始めた。そして・・・もう2小説目には気付いてしまった、感じてしまった。自分の8ビートの違和感を・・・

当時の自身の8ビートは、ただ単に譜面に書かれた音符をそのまま叩いただけだ。ハイハットが8分音符で、ハイハットと同時に1拍目・3拍目にキック、そして2拍目・4拍目にスネアを叩く。あくまで手足を組み合わせた単なるパターンを平然と叩いているだけ。

要するに、1拍・3拍でハイハットとキックが同時になり、2拍・4拍でハイハットとスネアが同時になり・・・という感じで、あくまで身体的な捉え方でしかなかった。

一見それが普通じゃないのか?と思うかもしれないが、これだと音楽の本質的な部分に欠けてしまっている。その欠けてるものが何かというと、音楽に必要不可欠な3大要素、踊り・表現・歌だ。

ハイハット、スネア、キックそれぞれに、何だかの感情を注入しなければいけない。この要素がないままビートを叩いてしまうと一切音楽にはならない。

そして、譜面上の音符を組み合わせて、その通り叩けても何も感じないし、おもしろくない・・・ 聴き手の体をもっと動かさせたい・・・ こういった気持ちがこのショーの瞬間からあまりに強くなってしまったため、一つ一つじっくりと研究してきて今に至る。もちろん練習は現在も進行形だ。

ここで、この3大要素によって~自分なりの8ビートを表現するために、ハイハット・スネア・キックをそれぞれどういう捉え方をして演奏しているか~をご説明したい。あくまで僕自身の場合である。人それぞれ感じ方は異なるので、是非自分なりの感じ方を見つけてみるとすごく楽しいに違いない。

 

8ビートでの3大パート、それぞれの役割

ハイハット(右利きの場合は右手) = 自分の感情が一番良く表れ、曲のフィールや表情を決める。もちろんタイム/テンポキープの要素もあるが、それ以上にハイハットで一番大事な要素は、~自分がどう踊っているか~。要するに踊りの部分が一番反映されるパートだ。

よって、ハイハットでその曲のテンポとフィールが決まり、キックとスネアはそのハイハット軸を基準に入ってくる。(何を基準にタイムを感じているか・・・は、人それぞれ異なるので、自分なりのタイムの感じ方を知ることが最重要である)

音色的には、どこの拍に/何打目に/どれくらい*Intensity(インテンシティー)*(以下参照) やアクセントをつけているのか。ダイナミックス(音量)はどれくらいか。表拍がどれくらい強かったり弱かったり、裏拍がどれくらい強かったり弱かったりするのか。全音フラットで一定の音色なのか。などなど・・・

これ以外にも言葉ではなんとも表現出来ないような叩き方もするであろう。

ハイハットを叩く時に、その曲の持つイメージや表情と、自分の感情との間で相互作用が起きることによって、表情がついた8ビートが生まれる。そして何よりも体の動き・・・体がどう踊っているかが、このハイハットと連動してくる。

そのため、ハイハットを叩く右手から右半身にかけての動きが基盤になって、その楽曲上での踊り方・体の動きが生まれていると言っても過言ではないと感じる。

日本では目にする場所が限られて分かりにくいかもしれない。ただ、ドラムを叩く時の体の動きは、アメリカでTop40バンドやビッグバンドなどのお客さんを踊らすことが目的のショーをやってる時に、目の前のお客さんの~踊り~を見ていたら、自然に体が動くようになった。

その楽曲での踊り方をイメージ出来れば、自然とハイハットから気持ち良くなり、すごくドライブし、ノリの良いビートを叩くことが出来る。音楽には必ずなんだかの踊りが存在する。その部分とすごく密接な関係にあるのが、ハイハット(右手/右利きの場合)だ。

スネア = 自分の気持ち良い*ポケット*(気持ち良い/絶妙な叩くタイミングのこと)「ポケットについて」のブログで詳細説明←(ここをクリック) に入れることだけに集中する。基本的にその曲の雰囲気に自分自身が入り込めていれば自然と曲に合うポケットに入るので、あえて意識的に早く叩いたり、遅く叩いたりしようとはしない。

スネアを叩くタイミングを意識し過ぎると、その楽曲に合うポケットに逆に入りづらくなってしまう。意識が強すぎると、意外とタイミングが早くなり過ぎたり、遅くなり過ぎたりと、自然じゃなくなってしまって気持ち良くなりづらいからだ。

もちろんスネアの正しい*Placement(プレイスメント)*(以下参照)、要するにクリックに対してジャストのタイミングを理解した上で、ポケットは感じることが出来る

唯一、スネアのタイミングに少々の調整をかける時がある。それは、シンガーの歌い方がタイムに対してかなりの度合いで、前のめり(ハシり気味)、または後ろ寄り(溜め気味)の時だ。要するにシンガーのタイム感の癖がすごく強い場合のシチュエーションだ。

僕の場合は、ライブなどでも限りなくシンガーを見ていたい。なぜなら、息を吸うタイミングを見ていれば、スネアがどのタイミングに入れば歌いやすいか感じられるからだ。そして自分自身も真似るように、そのシンガーと同じ息遣いをすれば、すごく良く絡むことが出来る。

当然、楽曲のイメージによって歌い手の人はあえて溜め気味にしてきたりもする。それにドラマーもついていくのか・・・ついて行かずにオンタイムで前気味にキープしていくのか・・・これはその時によりけりだが、大きく分けてこの2つの選択肢が存在する。楽曲のイメージに合う方を選びたい。

基本的にスネアはメロディーが存在する中で、都合のいいタイミングにハメる。ということは、自分自身も叩きながら何だかの歌を歌ってることになる。スネアは歌の部分とすごく関わりが深いパートだと感じている。

*ひとつ気を付けなければいけないことは、自分の中で感じてる気持ち良いポケットと実際に手が動いてる感覚には意外と誤差がある場合があるというところだ。その差をどれだけ埋めていけるかが、大事な練習課題のひとつだ。この場面でも、ロサンゼルスの師匠たち②グレッグ・ビソネット氏のブログでご説明している、セルフ・アナライジングの作業がかなり有効になる。

キック = 特に変な癖もなく、メトロノームに対してジャストにハマっているのが理想で、基本的に意識しない。上記のハイハットとスネアは、感情的に動くパートなので、常にタイムに波(ハシる要素やモタる要素)が生まれている。

そのため、グルーヴを叩く時の体の3大パート((右手、右足、左手(左足は空動きをする場合あり))の中でどこか一ヵ所は、完全ジャストにハマってないとタイムの基本軸がなくなり、タイム・キープが出来なくなってしまう。

キックはこの体の3大パートの中で唯一、ジャストのタイミングで、いい意味で個性がないほうがバランスを取りやすい。

もちろんキックを軸にタイムを感じる人もいるが、僕の場合はどうしても気持ち良くなれなかった。人によって感じ方は違うので、もちろんキックを軸に全体のタイムを感じても素敵だ。

例えば、Chris BottiやDavid Sanbornのドラマーでもお馴染み、Billy Kilson(ビリー・キルソン)氏は、「ロックやポップスなどでは、キックとスネアの2パートでタイムを感じ、ハイハットはお遊びの部分。ジャズ系では1番にライドシンバル、2番にハイハットという2パートでタイムを感じている」と、常に力説している。あくまで自分なりの感じ方を探ることが重要で、楽しみの一つでもある。

 

*Intensity(インテンシティー)* = 力強さ、強度、集約度、厚み、深く(感じること)、という意味合い。

・アクセント=音の大きさ / インテンシティー=音の強度、厚み(音圧)。

・アクセントはつけてなくても、その1打に全身全霊を集中させて大事に叩くイメージ。

・アクセントとはまったく違う表現法。海外では、音楽の場ですごく頻繁に使う言葉。

・フィール/タイム面のお話では、例えばタイムがLaid Backしてジャストより後ろにいつつ、バンド全体を引っ張る力も共存している状態であること。

 

*Placement(プレイスメント)* = 音符のハマる本来の正しい位置・タイミングのことを言う。基本的に前気味や後ろ気味などの個々のフィール・感覚的意味合いを指すことはない。当時よく、「3連符の3打目のPlacementがおかしい」、などと指摘されたことがある。これはただ単に、3連符の3打目を叩くタイミングそのものが、通常よりずれているという意味合いだ。自分なりのフィールを放出していく前に、まずクリックに対してジャストで、全ての音符を正しい位置(ある意味で個性のない)にハメることが重要になってくる。

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